FC東京と石川直宏氏がサッカーを通じて育む、よりよい地域社会・地球環境づくりと「ECOパスプロジェクト」。
今回ご登場いただくのは、2003年に日本代表、2004年にアテネ五輪代表、2009年にはJリーグベストイレブンに選ばれた元プロサッカー選手・石川直宏氏だ。
膝や足首の怪我に悩まされながらも、キレのあるプレースタイルと親しみやすい人柄でファンを魅了し続け、2017年に惜しまれつつ引退した石川氏は、現在「FC東京クラブコミュニケーター」として活躍している。
そんな彼の所属するJ1リーグFC東京が2017年より実施しているのが、ペットボトルの回収・リサイクルを推進するための「ECOパスプロジェクト」。その概要とともに、FC東京と石川氏の、よりよい地域社会や地域環境づくりのための取り組みについて伺った。
ー 石川さんは選手を引退した 2017年より、「FC東京クラブコミュニケーター」として活躍されています。そこに至るまでの過程について教えてください。
2002年にFC東京でデビューしてから15年間、Jリーグの選手としては18年間プレーしてきましたが、怪我の影響で最後の 2年半は試合に出られずにリハビリをしていました。ピッチの上で結果を残すことを目標にやってきたので、その間、チームの力になれないもどかしさがあって。とにかくやりきることを目指して、ようやく果たした復帰試合の直後に引退するという形で、選手生活を終えました。
引退した後、何らかの形で「クラブの力になりたい」ということをずっと考え続けていました。「チーム、ファン、そして地域や社会との繋がりを大きくしていくことで力になりたい」という思いを当時の社長に伝えたところ、「クラブコミュニケーター」という役職をつけてもらいました。
それ以降、「一体感」をテーマに、自分なりに試行錯誤しながら、FC東京を取り巻くさまざまな人達をつなげる場を作るという活動を行っています。クラブの思いを発信してサッカーを伝えていくことも大切ですし、自らが地域やファン・サポーター、クラブスポンサーなどのさまざまな方とつながり、その思いをクラブに伝えていくことも大切だと思っています。
ー 具体的にどういった活動をされているのですか。
活動は多岐にわたります。例えば、主に特別支援学級に通う小学生を対象とした「FC東京あおぞらサッカースクール」を開催したり、調布の子どもたちと共にピースメッセンジャーとして広島や長崎のチームを訪れて、平和について学んだり。さらに、ゴミ拾いや農作業など、地域のコニュニティーを活性化させるような取り組みも行っています。
ー サッカーを中心に社会をより良くしていく、という取り組みをされているのですね。環境活動においては、2017年より「ECOパスプロジェクト」として、ペットボトルを資源として循環させていく取組を帝人フロンティアと共に行っています。
スタジアムでは、使用済みペットボトルのラベル、キャップ、飲み残しを分けて回収しています。分別はリサイクルのしやすさにつながります。その一つ一つの行動が環境につながっているということを自分事化してもらえたらと思っています。
リサイクルポリエステル「エコペット」の生地で作られた FC東京オリジナルの「ECOパスバッグ」を毎年数量限定で販売しています。ペットボトルが回収された後に、エコバッグをはじめとしたさまざまな物に生まれ変わっているということを「見える化」する試みです。リサイクルに対する意識を深めるきっかけになればという思いから始められたものです。
販売ブースの横にペットボトルが生地になるまでの工程を展示したり、会場の大型ビジョンでゴミ分別の啓発動画を流したり、SNSで周知を図ったりすることで、リサイクルについて考えてもらえるように情報発信しています。
SNSでの投稿を見ていると、ご家庭でもしっかりとゴミの分別を行なうようになったという反応を目にすることも多くて、うれしいですね。
ー 昨年に引き続き今年も地球環境をテーマにしたイベント「NO PLANET, NO TOKYO」を実施されています。その概要と、そこに込められた思いについて教えてください。
何でもないことのように思いがちですが、サッカーができるということは当たり前のことではありません。平和で安心できる地球環境が維持できてこそ、サッカーを楽しむことができます。
その環境を持続するために、FC東京がハブとなってさまざまな社会連携活動に取り組んでいる企業や団体と手を組み、平和で豊かな地球環境について考え、行動につなげていくためにスタートしました。
ー 具体的には、どのような取り組みを行っているのでしょうか。
今年の9月には、年齢や性別、障がいの有無に関係なく一緒にサッカーを楽しむことのできる「インクルーシブフットボール体験会」を行いました。
杖をついている方や耳の不自由な方、目が不自由な方、知的障がいのある方など、障がいを抱えた方とともに、ピッチの中でひとつのボールを使ってサッカーを楽しむ。それだけで、相手のことを思いやるリスペクトの気持ちが生まれると思うし、いろいろなことを考え、感じてもらうことができると思うんです。今回の取り組みもさまざまなメディアに向けて発信することで、お互いについて少しでも理解し合えたらいいなと思いますね。
この他にも、教育の観点から、地域の子どもたちを招いてFC東京の選手を取材してスポーツ新聞を作ってもらったり、環境の観点から、地域の人々と一緒にゴミ拾いを行ったりしました。
ー その他、FC東京の社会連携活動の取り組みを教えてください。
Jリーグと協力しながら、発達障がいなどの診断を受けている感覚過敏の症状のあるお子様とご家族が安心して試合を観戦できるよう音や照明に配慮した「センサリールーム」を試験的に会場に設置しています。これまで観戦に来られなかったご家族にも、サッカーを楽しんでもえるようになりました。また、多摩少年院の院外学習として、グランドキーパーやホペイロ(用具係)の仕事を体験してもらうなどの活動も行っています。
すべての人に対して社会としての受け皿があるということが大事だと思います。
ー 石川さんが「クラブコミュニケーター」という仕事を通じて、実現したいことを教えてください。
引退後、僕も他の選手のように、コーチや監督として現場に戻ることも考えまし た。でも、FC東京をより強くするためには、スポンサーやサポーター、地域の皆様と協力しながら、クラブを取り巻く環境をより良くすることが大事だと思って、現在の活動を行っています。それぞれの活動の先にどんな世界があるのか、活動に関わっている方々が思い描けるようにしていきたいです。そのためには、広い視野をもちつつ、目の前の一つ一つの活動の積み重ねだと思っています。サッカーを通じて、生きるエネルギーや喜びを共有できるようにしていく、それが僕の役割だと信じています。
今後も地域や社会とのつながりを大切にしながら、サッカーを通じてみんなの人生を豊かにすることができたらいいですね。