Interview

この世にたった1つの特別な1着を作り出す、リメイクブランド「BEAMS COUTURE」の水上路美氏が、「エコペット」に魅せられた理由とは。


老若男女、日本に住むファッション好きな人々なら必ずその名を知っているであろうセレクトショップ、BEAMS。そのBEAMSが展開する数多くのレーベルの中で、最も異端とも言える存在でありながら、さまざまな業界から注目を集めているのが、今回紹介する「BEAMS  COUTURE」だ。

倉庫に眠る商品在庫やテキスタイル会社の片隅で忘れ去られた生地など、様々なデッドストックをリメイクし、魅力的な新しい洋服を作り出すその取り組みは、「着る楽しみ」を追求してきたBEAMSならではの、サステナブルな社会の実現に向けた第一歩と言えるだろう。

そんなBEAMS  COUTUREが今回、「エコペット」の生地を採用したワンピースを製作したという。デザイナーである水上路美氏に、「エコペット」を採用するに至るまでの経緯とその魅力について、さらにブランドが行っているサステナブルな取り組みなどについて話を伺った。


– BEAMS  COUTUREのコンセプトと、ブランド立ち上げの経緯を教えてください。

BEAMSでいくつものウィメンズレーベルのオリジナル商品をデザインしてきたのですが、ある時、師匠として尊敬するkeisuke kandaのデザイナー、神田恵介さんとお話する中で、「店頭に出ていない在庫をリメイクする」というアイデアを頂いて。それがBEAMS  COUTUREのコンセプトに繋がっていきました。神田さんをクリエイティブディレクターにお迎えして、私がデザイナーという立場で、BEAMS  COUTUREを立ち上げました。

– アップサイクルした洋服を扱うブランドの名前に「couture」と付けているのがとてもユニークだと思うのですが、その意図を教えてください。

ブランド名をどうするかについてはとても悩みました。わかりやすく「Re」をつけるなど、色々な案もあったんです。その中で、リメイクの仕事は全て手作業でやっていく、完成するものはどれも1点もの、ということを大切にしたいという意味を込めて「COUTURE」という名前に落ち着きました。

– なぜ、BEAMS  COUTUREで洋服のアップサイクルに取り組もうと思ったのでしょうか?

これまでアパレル業界は、在庫の廃棄処分という非常に大きな問題を抱えていました。サステナブルな社会を目指す時代となってゆく中で、業界全体でもその問題が共有されるようになりました。現在、BEAMSでは在庫を捨てることを一切行わないことはもちろん、さまざまな形で洋服を活かすための方法も画策しています。

とはいえ、当ブランドは廃棄をゼロにするために立ち上げられたものではありません。在庫の中にあるかわいいものに手を加えて、お客様が楽しんで大切にしてくれるものに作り変えたい、という気持ちを形にしたブランドでありたいと思っています。

– BEAMS  COUTUREで行っている洋服のアップサイクルについて教えてください。

元の洋服にむやみにハサミを入れたり、大幅なデザイン変更をしたりするのではなく、なるべくそのアイテムを作った方への敬意を払いながら手を加えていく、という作り方を意識しています。

また、シーズンごとに、生地屋さんの余っている生地を使ってブランド定番の型に載せてリリースするというプロジェクトも行っています。

今後は、イスやバッグのようなアイテムに作り変えることも考え、洋服以外への活用も視野に入れています。

– 今回「エコペット」で製作したワンピースについて教えてください。

このワンピースは、当ブランドの中でも一番大人っぽくて、上品な商品になったのではないかと思っています。ドレープ感がありながら立体的でもあり、洗練された雰囲気が上手く表現されていると思います。そして、BEAMS  COUTUREを象徴するディテールとも言えるリボンをフロントに着用すると羽織として、バックに着用するとワンピースとして使うこともできます。インナーにはTシャツ、ボトムにはデニムを合わせるとカジュアルでありながら上品な雰囲気も出て、このワンピースの魅力が引き立つと思いますね。

– なぜ、素材に「エコペット」を採用したのでしょうか?

正直に言うと、「エコを謳うために素材をさがした」というよりも「単純に生地の魅力で選んだ結果、それが『エコペット』だった」というのが理由ですね。

今回使用した「エコペット」は、リサイクル原料からできたとは思えないほど、光沢感と落ち感が素敵な素材でした。ブランドのコンセプトにも合うエコな素材であるだけでなく、生地の色や触感も素晴らしいので、これからも使っていきたいと思います。

– 端材などをアップサイクルしてデザインする際には、さまざまな「発見」や「驚き」「苦労」があると思います。

BEAMS  COUTUREでは、一点一点全て手作業で洋服のリメイクを行っているので、通常の洋服作りよりも大変な作業は多いと思います。リメイク元の洋服は、同じようなデザインであっても一つ一つ色や特徴も違っているので、一つのリメイクを完成させるためにその都度デザインを考えなければならず、とても時間がかかります。生地屋さんの余っている生地も、それを見るまでどんなものなのかわからないので、一つの型を決めたとしても本当に難しいですね。

それでも、それぞれの生地の特徴を活かしながら、ハリをもたせたり、落ち着いた雰囲気を出したりしていく、というのは本当におもしろいです。今回のワンピースを制作したときのように、自分の引き出しにはないさまざまな生地との出会いがあるのも非常に楽しいですね。

– デッドストックの洋服を素材として使用した場合、通常の制作方法とは異なる手法となると思うのですが、そのデザインの方法について教えてください。

例えばスポーツウェアをリメイクする時には、リボンやレースをふんだんに使ったデザインにしました。従来、スポーツウェアは動きやすくするためにデザインを削ぎ落としていくのが普通なのですが、それとは逆に過剰な装飾を施したんです。その結果、通常のスポーツウェアとは違うかわいさや価値観を表現できたと思います。一般的な価値観から離れて、どんな人でもかわいいものを楽しんでいいんだよ、というのが、BEAMS  COUTUREの考えの根底にはあるんです。

– BEAMS COUTUREが考える「サステナブル」とはどのようなものでしょうか?それとともに、今後のブランドの展望を教えてください。

私自身は、「もともとあるものを新しく生まれ変わらせる」ということが一番のサステナブルだと考えています。「忘れられているもの」「残されているもの」の魅力を汲み取って、「新しいもの」「かわいいもの」として世に出すことが、当ブランドがサステナブルな社会の実現に向けて貢献できること。もともとリメイクというのは、本当にファッションが好きな人々が編み出した究極の楽しみ方です。「ファッションでおもしろいことをしたい」という気持ちを大切にしながら、BEAMS COUTUREを知ってくださった方々の価値観をサステナブルな方向へと変えていくことができればいいな、と思っています。

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